年商とは1事業年度の総売上を指します。
では、年収や売上高と年商は何が違うのでしょうか?これは経営者や経理など、立場を問わず理解しておきたい概念です。
本記事では、年商・年収・売上高の定義を明確に理解し、事業で年商の値を有効活用するための方法を詳細に解説をしていきます。
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上たちました。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティング、税務対応を行っています。あわせて、CFP®(ファイナンシャルプランナー)の資格を生かした個人様向けのコンサルティングも行っています。
年商=1事業年度の総売上高
会社経営では決算期を境に事業年度があります。1事業年度は1年間です(会社設立の1年目や、決算期変更を行った場合等を除く)。その1事業年度の総売上を年商と言います。
年商は会社の利益ではない
年商が10億円だとしても「会社の利益が10億円」ではありませんし、「社長の年収が10億円」ということでもありません。
あくまで年商とは「事業年度(1年間)における売上高」であり、ここから費用が差し引かれてはじめて利益が見えてきます。
年商で分かるのは事業規模
一方、年商で事業規模を知ることができます。年商が大きければ、大規模な取引をしている会社だということです。
ちなみに「月商」「日商」にも同様のことが言えます。月商・月収・月給の違いに・日商の意味については別記事で解説しました。
年商と売上高の違い
年商と売上高の違いは期間です。
年商は、事業年度の頭から終わりまでの1年間の総売上です。期間の長さは変更できず、起算月も固定です。
一方で売上高は、任意の期間を設定できます。年単位である必要はなく、1日・1ヵ月・平日のみなど、起算日も決まっていません。
ただし、売上高の期間設定を「事業年度の始めから終わりまでの1年間」と設定した場合は年商と同じ意味になります。売上高と年商を同じ意味で使用することもあるので注意しましょう。
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年商と年収の違いとは?
年収とは「年商から費用(経費)を引いた額」です。経費が0円でない限りは年商よりも少ない額となります。また年収から社会保険料や税金を引くと所得(手取り)です。
年商1億円と聞くと強い印象を受けますが、各種必要経費を引くので手元に残る額は判断できません。赤字の場合もあります。
一方で年収は必要経費を引いた額です。つまり手元に残るお金です(そこから各種税金等は支払います)。そのため年収からは利益が出ているかが判断できます。
年商を業務に活かす方法
年商は、1事業年度の総売上高を指すことが分かりました。ただ、意味を理解しただけでは、実際の業務で活かすことができません。ここでは、年商を業務に活かす方法について解説をします。
外部へのPR
年商は外部へのPRに使えます。例えば、採用説明会です。参加者に年商を伝えることで会社規模を把握してもらえます。また、経営用語に詳しくない相手でも興味を引きやすいです。
創業当初における年商・売上高の重要性
売上高は他企業が自社を評価する際の基準になります。創業当初に資金調達をする際も創業計画書を見て返済可能と判断されない限り審査が通りません。
また、事業拡大にも影響します。創業当初は1年後に初めて年商が確定します。1年間事業を行った結果として、外部から事業規模の判断がされるのです。ここで健全な事業活動を示せれば、他社からの信頼性の向上が狙えます。
創業何年目の企業であっても、年商や売上高は重要な数字です。しかし、創業当初の企業にとっては今後の事業の発展のために更に重要な値と言えます。
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他社の事業規模の判断
年商は、他社の事業規模の判断に使うことができます。相手の事業規模から、自社の競争戦略を決定することも可能です。また、取引先の信頼性を確認する要因の1つでもあります。
ただし、年商が高いことが収益を多く得ていることには直結しないため、参考情報の1つと考えましょう。
自社の経営分析
年商は自社の経営分析でも活用できます。
年商を顧客ごとに分け、年商の大部分を1社が占めている場合、リスクが大きい状態です。その取引先が倒産、取引停止した場合、売上を大きく失ってしまうためです。
リスクを分散させるためにも複数の取引先を持つことを検討しましょう。この分析が売上高ベースの場合、短期間での分析となってしまいがちです。長期的に会社の安定を図るなら、長期的なデータで検討しましょう。
短期間のうちに大きな取引があっても、継続した取引でなければ会社のリスク管理に繋がらないためです。
中小企業の倒産理由に連鎖倒産があります。特定の取引先に依存したままだとその会社が倒産することで業績不振となり、一緒に倒産してしまうのです。
年商を取引先ごとに分けることで経営リスクを分散できているのかが分かります。すでに事業経営をしている方は、ぜひ年商を使って経営分析をしてみてください。
年商と損益計算書の5つの「利益」の違い・関係性
損益計算書には5種類の利益があり、年商と大きな関係性があります。ここでは5つの利益の意味や計算方法を解説します。
・営業利益
・経常利益
・税引前利益
・税引後利益(純利益)
なお、損益計算書上の売上高と年商は同義ですが、ここでは損益計算書に則って「売上高」で統一します。
売上総利益(粗利)とは?
売上総利益とは、売上高から売上原価(製造原価)を差し引いた利益を指します。「粗利」とも呼ばれています。
売上原価とは、商品の仕入や製造にかかった直接的な費用です。例として仕入や材料費などが挙げられます。
例えば「売上高=1,000,000円」「製造原価=300,000円」の際の売上総利益(粗利)は以下のようになります。
売上総利益(粗利)は、その商品・事業の収益力の指数となります。
しかし、これから他の費用などを差し引くため、最終的な利益とはならないため注意が必要です。「売上総利益がプラスだから黒字」とはなりません。
営業利益とは?
「営業利益」とは、売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた利益です。
販売費とは、売上高を得るために要した費用を指します。例を挙げると、販売手数料や広告宣伝費などです。
また、一般管理費とは、売上高に直接関係しない費用です。会社の管理部門に係る費用などが該当し、通信費や家賃などが挙げられます。
仮に「売上総利益=700,000円」「広告宣伝費=100,000円」「家賃=300,000円」「通信費50,000円」だとします。その時の営業利益は以下の通りです。
営業利益が分かると「主たる事業でいくら儲けたか」が判断できます。
経常利益とは?
経常利益とは、営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いた利益です。
営業外収益(費用)とは「主たる事業以外で発生したお金の動き」を指します。例を挙げると受取(支払)利息や、事業の傍ら行っている不動産の賃貸などです。
例えば「営業利益=250,000円」「借入金の支払利息=50,000円」とします。この時の経常利益はこのようになります。
経常利益が分かると「会社全体でいくら儲けたか」が把握できます。
税引前当期純利益とは?
事業を行っていると、突発的なお金の動きが生じます。災害による損失や不動産の売却益(損)などです。これらのお金の動きを「特別利益(損失)」と言います。
特別利益(損失)は臨時性や金額の大きさなどから個別的に判断されます。そのため「これは特別利益(損失)」と断定できる絶対的な基準はありません。
そして、経常利益に特別利益(損失)を加えた(差し引いた)利益を「税引前当期純利益」と言います。
税引後利益(純利益)とは?
税引前利益から法人税等を差し引いた利益を「税引後利益(純利益)」と言います。これが事業年度における最終的な利益です。
法人税等には、法人税の他にも、法人住民税や法人事業税が含まれます。
まとめ
年商を理解すると、似た語句の使い分けや、事業の分析に大きく役立ちます。一方で、意味が混合したままだと、取引先に大きな誤解を生む可能性もあります。
当記事では年商の意味や、混合しやすい語句との違い、活用方法などを解説しました。これらの語を正しく理解し、今後の事業に役立てましょう。
同じ規模の会社でも、業種によって、年商が大きく変わることがあります。卸売業や小売業は、粗利が少ないため、年商は大きくなりがちです。一方で、サービス業は売上原価がないため、年商は小さくなりがちです。
また、同じ業種であっても、その会社のビジネスモデルがどうなっているのか。薄利多売を行っているのか、少量でも粗利の高いものを売っているのかによっても変わります。
表面的な年商の数字にだけとらわれるのではなく、その業種の特性、さらにはその会社の特性を考慮に入れながら理解することが必要です。