ある調査によると、コロナ禍で助成金相談が増えたと感じる専門家は9割以上とのこと。それだけ経済的に切迫した経営者が多いということがわかります。
そこで今回は、起業家が助成金・補助金を支給されるための正しい知識について、弊社代表の小澤がみのだ社会保険労務士事務所の代表・蓑田真吾さんに伺いました。
起業家がいざという時に使える補助金・助成金制度や、普段から行うべき節税対策を詳しくお聞きしています。
- 助成金は要件を満たせば支給されるもの
- 補助金は要件を満たした中から選抜されるもの
- 起業で使える助成金・補助金は7種類
- もらうと同時に節税対策も大事
- 節税におすすめなのは共済制度
- 補助金、助成金と融資は使い分けるべし
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コロナ禍の今…起業家の助成金相談が増加
蓑田:社会保険労務士事務所を運営しておりますが、コロナ禍になってからというもの起業家の方からの深刻な相談がかなり増えています。
小澤:そうなんですね。
蓑田:はい。「コロナの関係で資金繰りが厳しく、助成金をなんとかして出してもらえるようにしたい」こんな声が多いですね。しかし、助成金を給付してもらうには労働契約書やタイムカードなど、いろいろな整備が必要になってきます。そのため、すぐに申請してもらえるようなものではないのです。
小澤:申請するにも結構な手間があるということですか。
蓑田:そうです。また、起業の助成金自体の審査はかなり厳しくなっており、きちんと準備したにもかかわらずもらえなかったという起業家の方も少なくないです。
小澤:助成金といえども意外にハードルが高いんですね。ちなみに、経営難に陥っている起業家の方は増えているんですか?
蓑田:社労士としての肌感覚では、二ヶ月前くらいから経営難の「赤信号」が出ている人が多いですね。「人員を整理しないといけない、給与が保証できない、営業ができない。」「2年前に起業して、こんな状況になっているなんて予想できなかった。」こんな声が増えてきていると、社会保険労務士事務所をやっていて感じます。
助成金とは?
小澤:ここまでで、コロナ禍で厳しい現状があることがわかりました。そもそもの話になるのですが…まずは「助成金とは一体なんなのか?」というお話について伺ってもいいですか?かなり初歩的な話になってしまうのですが…。
蓑田:はい、もちろんです。助成金を簡単にまとめると以下のようなものになります。
・財源は労働保険料の事業主負担分
・労働保険の適用事業所であることが要件
・労働保険料の滞納がないことも要件
・出勤簿、賃貸台帳、雇用契約書、就業規則など、法律で作成が義務付けられている帳簿を備えていること
・要件に当てはまれば原則として支給される
蓑田:助成金の最大の特徴は「要件に当てはまれば原則として支給される」という点です。これが補助金などとは大きく異なる点であり、多くの起業家が助成金制度に申し込もうとする理由もここにあります。
小澤:なるほど…。助成金は求められる条件に当てはまればもらえるんですね。ただ、最初にもおっしゃっていたように、法律で義務付けられた書類などの整備を行っておかないと申請に時間がかかりそうです。
蓑田:また「財源は労働保険料の事業主負担分」というのも注目したいところ。助成金の財源は、経営者のみなさんが支払っている労働保険料になります。そのため、助成金を受けないということは、労働保険料を有効活用できていない状態とも言えます。
小澤:そう言われると、要件に当てはまれば積極的に使っていかないと…と感じますね。
蓑田:その通りです。また、助成金を受けるために揃えておかなければならないものがいくつか存在します。起業をされたら税務署周りとか社会保険・労災保険の設立など、色々な手続きが必要になりますよね。
小澤:そうですね。
蓑田:個人事業主であれば不要なものであっても、法人化すると一人社長でも法に則って揃えるべきものは揃える、やるべきことはやる、ということが必要となってきます。こういったことをしておかなければ、そもそも助成金を申請するテーブルにすら上がってこないんです。
小澤:弊社も起業家の卵とも言える受講者様がたくさんいらっしゃるので、その辺りは周知していきたいところですね。
起業で使える助成金・補助金について
小澤:ここからは起業で使える助成金や補助金についてお話を伺っていければと思います。
蓑田:はい。今回は7個の助成金・補助金と、税制上の優遇措置(節税効果に寄与する制度)についてご紹介をしていきます。
事業承継・引継ぎ補助金
蓑田:まずは、最近ご相談も増えてきた「事業承継・引継ぎ補助金」についてご紹介します。こちらは今年の4月頃から先行して情報が出てきており、非常に新しい補助金制度となります。
小澤:あまり聴き慣れない制度ですね…。
蓑田:こちらは、先代から事業を引き継いだ場合に一定の補助をするものになります。事業の再編とか自身が一から起業するという機会に対する補助金ではなく、親世代や知人から引き継いで独立する場合に使える制度となります。
小澤:なるほど。後継者問題が叫ばれる中、費用負担の軽減や承継後の積極的な投資を促進するための制度というわけですね。
蓑田:はい。あと、こちらの補助金は「創業支援型」と呼ばれるものです。これまでの事業承継補助金というと「経営者交代型」と「M&A型」の2類型でしたので、「事業承継・引継ぎ補助金」で初めて創業支援型が追加された形になります。
小澤:承継は必ずしも経営者が変わったり、買収されたり…というケースに留まらなくなってきているということですね。創業支援型の補助金の場合、事業と経営資源をセットで引き継いで創業する必要があると聞いたことがあります。
蓑田:そうですね。
小澤:ちなみに、この補助金の受けるハードルはどれくらい高いのでしょうか?
蓑田:この補助金だけに留まらないことではありますが、要件が当てはまれば99%支給される助成金とは異なり、補助金は採択される必要があるので支給決定のハードルは低くはありません。イメージとしては「春の選抜高校野球大会」ような感じですね。選ばれないと出場できない、と。
創業助成金
蓑田:次に紹介するのは、東京都中小企業振興公社が行っている「創業助成金」です。こちらは東京都にある企業が対象となる制度です。
小澤:こちらは東京都の事業者にとっては有名な助成金制度ですよね。
蓑田:そうですね。こちらは4月と10月の年2回受付しか行われているものではありません。
小澤:申請期間に限りがあるということですね。
蓑田:あと「創業助成金」という制度名だけあって、経営者のキャリアが5年を超えてしまうと申請要件に当てはまらなくなってしまいます。
小澤:なるほど。創業期間に限った助成金というわけですね。
蓑田:その通りです。また事業概要を見るとわかるんですが、実際にお金が入ってくるまで2年くらいはかかってくるという点も念頭に置いておかないといけません。
小澤:実際に助成されるまでに意外と時間がかかるものなんですね。他に創業助成金で気をつけるポイントはありますか?
蓑田:助成率に関しても注意が必要です。「3分の2以内」と書かれている通り、実際にかかった費用に伴って助成金の額が決まります(最低100万円・最大300万円)ので、全く費用がかかっていない場合には助成金はおりません。
小澤:なるほど。
蓑田:また、申請から助成金支払いまでのプロセスが長く、ややこしいという特徴もあります。
蓑田:この辺りを理解した上で取り組む必要があるのが、東京都の創業助成金ですね。
中途採用等支援助成金
蓑田:次に紹介するのが「中途採用等支援助成金」ですね。こちらは、起業時の年齢が40才以上の方が雇用創出措置に係る計画書を提出し、費用の一部を助成してもらえる制度になります。
小澤:40代以降の方の起業支援を目的とした助成金制度ですね。
蓑田:そうです。自ら働く環境を生み出し、人生100年時代と言われる現代で、できるだけ長く「生涯現役」を実現することを目標として設置された助成金制度となります。
小澤:こちらの助成金のポイントもお聞かせ願えますでしょうか。
蓑田:まずは、従業員を最低一人は雇用する必要があるということです。また、65歳以上まで継続して雇用される見込みがある場合に限定されている点も注意が必要です。
小澤:採用活動・従業員雇用を積極的に行うための助成金でもあるということですか。
蓑田:はい。こちらの制度では、起業時60歳以上の場合には上限200万円、40〜59歳の場合には上限150万円までの助成額が設定されています。
蓑田:さらに注意点があります。まず、起業日から11ヶ月以内に「雇用創出措置に係る計画書」を提出し、都道府県労働局長の認定を受けている必要があります。
小澤:起業時はかなり多忙な人が多いと思うので、この点は忘れないようにしないといけませんね…。ちなみにこちらの助成金は法人でも個人事業主でも受けられるのでしょうか。
蓑田:そうですね。特に事業形態による限定などは見られません。40歳・11ヶ月・労働局から認定を受けること。これが基本の要件です。色々な助成金を扱ってきましたが、他の助成金に比べると要件のハードルは比較的に低いものだと思います。
キャリアアップ助成金
蓑田:次にご紹介するのは、2021年4月に一気に改正が入った「キャリアアップ助成金」です。
小澤:こちらはかなりメジャーな助成金ですね。どういった条件で受けられる助成金なのですか?
蓑田:例えば、起業をしてアルバイトの方を雇い、6ヶ月間働いてもらったとします。その後に賃金を3%あげて正社員として雇用。そしてさらに6ヶ月間正社員として雇った場合に57万円の助成金が支給されるものです。
小澤:なるほど。アルバイト時代と正社員時代の賃金比較が、キャリアアップ助成金の支給要件に当たるわけですね。
蓑田:おっしゃる通りです。あくまで6ヶ月間のトータルが比較されるので、正社員雇用1ヶ月目のみ給与を3%上げて、その後に下げちゃう…というようなことをすると要件に満たないことになります。
蓑田:さらに重要な点としまして、アルバイト時代の取り組みを始める前に労働局へ計画書を出す必要があります。この計画書を出さなければ、正社員へ登用する際に5%上げようと10%上げようと、全く意味がなくなってしまいます。そうしないと比較ができませんからね。この辺りは計画書の作成も含めて手続きが煩雑になってくるので、専門家に依頼した方が確実だと言えます。
小澤:なるほど。事前に計画書を出しておく必要があるんですね。
蓑田:はい。この辺りは忘れてしまうと助成金を受け取ることができないので注意が必要です。後、実はアルバイトから正社員ではなく、無期雇用に切り替えるだけでも28.5万円の助成金が受け取れます。その後、無期雇用から正社員雇用で28.5万円の追加がもらえるので、合計57万円がもらえるというわけですね。
人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)
蓑田:次にご紹介したいのが「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」です。こちらは社会保険労務士として、8割方の起業家の方々に提案しているものとなります。
小澤:8割以上も!そんなにおすすめの助成金制度なんですか?
蓑田:そうですね。こちらの助成金制度をざっくりと説明すると「ある取り組みをして、離職率が一定以下ならば57万円の助成金を支給する制度」ということになります。対象となる取り組みは以下のようなものです。
・研修制度
・健康づくり制度
・メンター制度
・短時間正社員制度(保育事業主のみ)
蓑田:この中でも一番メジャーなのが「健康づくり制度」になります。例えば、正社員を対象に胃がん検診などの「法定外の健康診断制度」を就業規則に新しく加え、6ヶ月間の計画期間を規定します。その後、社員が実際に健康診断を受け、期間6ヶ月が終了。そして、さらに1年後、離職率が一定以下なら、57万円が支給される運びになります。
小澤:なるほど。社員の健康作りの取り組みを行えばいいんですね。
蓑田:はい。他にも胃がん検診や子宮がん検診、乳がん検診、歯周疾患健診などいろいろなものが対象となります。
小澤:色々な取り組みがあるので、自社でやりやすいものを見つけると良さそうですね。
蓑田:それがこの助成金制度の魅力となります。また、先ほど8割以上の起業家さんに提案していると申し上げました。この点で注意なのが、起業したての人たちです。起業したばかりの人はそれ以前に人が辞めているということがないので、離職率という指標がまずありません。その状態で6ヶ月の計画期間に1人でも辞めてしまうと、「離職率が一定以上」になってしまうわけです。
小澤:なるほど。では、起業したての人はどうすればいいんでしょうか?
蓑田:極力早い段階で6ヶ月間の計画期間を労働局に出してしまうことです。そして、すぐに取り組みを実行して計画期間の6ヶ月をクリアすれば助成金を受けることができますから。こちらは従業員1人から申請できますし、法人・個人事業主のくくりもありませんので、とてもやりやすい助成金制度かと思います。
両立支援等助成金 女性活躍加速化コース
蓑田:次にご紹介するのが「両立支援等助成金 女性活躍加速化コース」です。
小澤:こちらはどのような助成金制度なのでしょうか?
蓑田:これは女性が働きやすい環境作りに伴う支出があった場合に一定割合の助成金が支給されるというものです。例えば更衣室を男女別にした、休憩室に女性特化型のものを作った…などが取り組み内容にあたります。
小澤:なるほど。社会全体で見てもそういう意識は高まっていますし、とても良い制度ですよね。
蓑田:そうですね。経営者として、今後女性従業員の方も採用していきたい、女性に働きやすい環境を整備していきたいという方にはぜひご活用いただきたいものです。
小澤:「両立支援等助成金 女性活躍加速化コース」についても、念頭に置いておくべき事項はありますか?
蓑田:まずは取り組み前に計画書を必ず出しておくことです。ここを忘れると、どれだけ取り組みを行っても助成金を支給されることはありません。全体の流れは下記に示す通りです。
蓑田:ステップ①で自社の課題を分析します。例を挙げるとすると、女性従業員が男性従業員に比べて少ないとか、女性従業員の方が残業時間が長いとか。これらの課題を分析したらステップ②-1で、その課題にふさわしい数値目標と取組目標を盛り込んだ計画を会社内外に周知してもらいます。
小澤:なるほど。助成金がもらえるというだけでなく、企業の環境整備としても非常に有効そうなプロセスではありますね。
蓑田:はい。そして計画に沿った行動の結果、目標を達成することで助成金が支給されるということになります。
えるぼし認定制度
蓑田:次は助成金制度ではないのですが、起業家の皆様に知っておいてほしい「えるぼし認定制度」というものを紹介します。こちらは、女性の働きやすい環境づくりを行っている企業に対する国の認定制度となります。
小澤:女性の社会進出に伴って整備された制度なんですね。
蓑田:はい。認定自体も4段階ありまして、女性の方からも働きやすい職場かどうかが一眼で分かるようになります。
節税対策で支出を下げるというアプローチ
蓑田:ここまでは、お金をもらうという視点の助成金についていくつか紹介をしてきました。ただ、助成金に関しては要件が当てはまるものがないことも多く、待ち続けている期間は当然ながら支給を受けることなどできません。
小澤:そうですね。
蓑田:そこで、ここでは「もらう」ではなく「支出を下げましょう」という観点から、起業家の皆さんにおすすめの節税対策について3点を紹介したいと思います。
経営セーフティ共済
蓑田:まず1つ目に紹介したいのが「経営セーフティ共済」と呼ばれる共済制度です。
小澤:これはどのような制度なのでしょうか?
蓑田:こちらは、取引先が倒産した場合に連鎖倒産を防ぐための制度なんです。こちらの制度を使った場合のプロセスをざっくりと並べると以下のようになります。
2.掛金を支払う(こちらは事業経費の扱いになります)
3.取引先の倒産時に共済から借入が可能!
4.解約時には掛け金の全額が返金される(※一定の条件があります)
小澤:なるほど。連鎖倒産はコロナ禍の今、最も怖い存在かもしれませんね。
蓑田:そうですね。掛金は経費になりますし、取引先が倒産したときには借入ができるので、かなり安心できるのではないかと思っています。
小澤:他にも経営セーフティー共済に加入するメリットはありますか?
蓑田:はい、大きく分けて5つのメリットがあります。
2.取引先が倒産した際、掛け金総額の最大10倍が無保証人・無担保・無利息で借入可能となる
3.取引先が倒産していない場合でも一時的に借入が可能
4.40ヶ月以上に渡り掛け金を納付した場合、掛け金全額の返金が解約時に受けられる
5.共済への加入を満たせば、加入と解約を何度でも繰り返すことが可能
蓑田:いわゆる「倒産保険」ともいえる内容の共済制度なので、入っておいて損はないでしょう。特にコロナ禍の連鎖倒産は増えていますから、やはり自衛手段の1つとして検討したいところです。
小澤:そうですよね。ちなみに掛け金は毎月どれくらい払うことになるのでしょうか?
蓑田:月額5,000円から20万円までとかなり幅があります。また、支払いできる掛金の総額は800万円までとなります。ちなみに払込は月払いと前納が選択できて、前納した場合には割引特典を受けることができます。
小澤:かなり融通が効いているんですね。起業したばかりでまだ収益が高くないところでも、加入できそうです。
蓑田:はい。また、掛金の支払いを止めることができます。いわゆる「掛止め」ですね。先ほど、掛金は事業経費になると言いましたが、利益が出ていない場合には経費が膨らむと都合が悪いこともあると思います。そんなときには納めないという選択も用意されているんですね。
小澤:ちなみに経営セーフティー共済に加入する際の注意点も教えていただけますか?
蓑田:一番大きいのは、解約時の返金がその年の収入にあたるという点です。解約で一気に掛金が返金されるとその年の収入が増えることになりますので、納税額が増える恐れがあります。このため、賢く使うためには税率が高い年に掛金を払い、税率が低い年に解約することがおすすめです。
小澤:なるほど。収入ばかりが増えてしまうと所得税がどんどん上がってしまうので、長期的に見て「掛金を払う年・返金を受ける年」を見極めた方がいいというわけですね。
小規模企業共済制度
蓑田:次にご紹介するのが「小規模企業共済制度」です。これは、簡単に言えば退職金制度と言ってもいいでしょう。
小澤:個人事業主や法人で用いることができる退職金制度ですか。
蓑田:そうですね。こちらも掛金は全額所得控除の対象になります。一応、流れも押さえておきましょう。
2.掛金を支払う(掛け金全額が所得控除の扱いになります)
3.解約時には掛け金の全額が返金される(※一定の条件があります)
小澤:なるほど。制度自体は先ほどの経営セーフティ共済と変わらなさそうに見えますが…小規模企業共済制度にはどんなメリットがあるんでしょうか?
蓑田:以下にザッとこの共済制度のメリットを並べたいと思います。
・年利0.9〜1.5%の借入制度が使える(※2021年2月時点)
・20年以上の加入期間で掛金全額と運用益を受け取ることができる
・解約金の一括受取りは「退職金」扱い。また、分割受取りは「年金」扱いとなる。いずれにせよ税制優遇措置の対象となる。
小澤:先ほどの経営セーフティ共済は無利息でしたが、こちらは低利率がかかってくるんですね。ただ、小規模企業共済制度には運用益があると。
蓑田:そうです。これは正直、個人事業主ならやっておいて損はないだろう、と言える共済制度ですね。注意点も押さえておきましょう。
・この共済制度は退職金の積み立てを意図した制度のため、長期加入が前提となる。
・小規模企業共済制度という名前の通り、企業規模が5〜20人でなければ加入できない(業種によって異なる)
・ただし加入後に組織が大きくなった場合は継続加入可能
個人型確定拠出年金(iDeCo)
蓑田:「個人型確定拠出年金(iDeCo)」に関しては、すでに知っているという方、もう加入済みであるという方も多いかもしれません。一応、iDeCoの仕組みをザックリ言っておくと「個人が自由に加入できる『私的年金』制度」です。ほとんどの人は政府が行なっている公的年金に加入していますが、こちらは自由加入のものです。
小澤:iDeCoは有名ですね!
蓑田:そうですね。一応、加入の流れも紹介しておきます。
2.掛金を支払う。(掛け金全額が所得控除の扱いになります)
3.解約時には掛け金の全額が返金される。この際の返金は退職所得か雑所得扱いとなる。
蓑田:iDeCo最大のデメリットは、途中解約ができないというところですね。この点は考慮して加入をすべきです。ただ、それにも勝るメリットもありますので紹介しておきます。
2.掛金の運用から得た利益は課税対象とならない。
3.年金受取時に掛け金を一括で受け取った場合は「退職金」、分割で受け取った場合は「年金」扱いとなる。いずれにせよ税制優遇が受けられる。
3つの節税対策まとめ
助成金を受けるメリット・注意点について
蓑田:最後に助成金を活用することのメリットと注意点について触れておきたいと思います。まずは、助成金の支給が難しい会社の特徴をザッと並べてみます。
・解雇者を毎年出している
・労働保険料などを滞納している
・最低賃金を下回っている
・残業代を払っていない
蓑田:正直なところ、こういったことをやってしまっている会社さんはせっかく書類をバッチリ揃えたとしても助成金が全くもらえないということになってしまいます。
小澤:助成金を受ける、受けないの前にきちんとやるべきことをやっているというのが前提になるわけですね。これは当然でしょう。
蓑田:はい。あと、今後助成金を申請するにあたって気をつけておくべきことも並べておきます。
・添付する賃金台帳やタイムカードなども注意
・助成金は毎年改正が行われているので情報収集が必須
・事前申請・事後申請など制度によって異なる
・申請期限忘れがありがちなミス
蓑田:先にも述べましたが、事前に計画書を出しておかなけれでば賃金を2倍にしようが3倍にしようが、助成金制度の対象にはなってきません。また、助成金によって事前申請のもの、事後申請のもので分かれます。こちらも狙う助成金によって要件を確認しておく必要があるでしょう。
小澤:確かに、これは初めて起業する人は気づかないまま要件が当てはまらないようになってしまうということもありそうですね。
蓑田:そうですね。あとは会社の所得になってしまうというところでしょうか。雇用保険や失業保険、傷病手当金や出産手当金など、個人で国からお金をもらう場合には税金はかかりません。しかし、会社がもらう場合には事業所得になるので税金がかかることは忘れてはいけません。
小澤:なるほど。
蓑田:他にも助成金を受けた場合には、5年間は労働局などからの調査の対象となります。助成金を受けるためだけに帳簿を作る…という企業さんもいるんですが、やはりこれはよくありません。少なくとも助成金を支給された年から5年は立ち入り調査がいつあるかわからないということを覚悟しておく必要があるでしょう。特に賃金台帳や出勤簿、労働契約書など法で定められた書類については助成金を受けるか否かに関わらず作成しておかなければなりません。
小澤:助成金を受けるのにも、かなり覚悟が必要そうですね。
蓑田:はい、やるべきことをやるという気持ちは持たなければなりません。また、助成金は社会保険労務士の国家試験では扱えないレベルで毎年改正がなされているんです。本当に毎年要件が変わっていくので、常に情報収集をしておかなければなりません。半年で変わるものもあるくらいですから。
小澤:専門家の方と連携して助成金の要件改正を常に追いながら、取りにいけるものがないか探しておくと良さそうですね。
蓑田:本当にその通りです。助成金や補助金を取りにいくために色々なものを買ったりする人も多いんですが、それはナンセンスです。あくまで要件に当てはまりそうなものを申請するというのが正しい助成金・補助金の考え方です。
小澤:なるほど。
蓑田:これまで助成金の申請のために色々と買って、結果として資金繰りが回らないという企業を数社見てきました。必要性のないものを購入し、社内が手狭になったり、買い替えが必要になったり。そういった結末になるのであれば融資の方が適切だったと言えます。無理に従業員を雇って57万円の助成金をもらっても、そのあと、その従業員を養っていかないといけないことを考えると、無理にもらうメリットはありません。要件に当てはまっている時のみ助成金を使うこと。いきなり融資というのも短絡的なので、やはり正しいタイミングで正しい判断をしていただけることが一番だと思います。
社会保険労務士(社労士)独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は様々な労務管理手法を積極的に取り入れ企業の人事労務業務をサポートしている。また、年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革関する専門家として、実務相談を多く取り扱い、大手出版社からも書籍出版するなど、多方面で執筆活動を行う。