起業前の相談は不要|起業家6万人の調査で分かる本当に必要な事とは

「起業前に誰かに相談をしておきたい」

特に起業未経験の方の中には、このような思いを持っていらっしゃる方も少なくないでしょう。起業文化が十分に培われていない日本では、事業の作り方・自らお金を稼ぐ方法を学ぶ機会やロールモデルも少なく、ご不安になられるお気持ちはよく分かります。

しかし、6万人の起業家・起業志望者を対象とする「2021年度起業と起業意識に関する調査」(日本政策金融公庫が2022年1月26日に公開)を丁寧に読み解くと、起業前の相談は不要であるという事実が浮かび上がってきたのです。

本記事では起業前の相談が不要な理由をはじめ、起業志望者にとって本当に必要なことをお伝えします。もし「起業前に誰かに相談したい」と感じるのであれば、ぜひ本記事を熟読頂ければ幸いです。

起業志望者が起業できない2大理由

起業 相談 起業していない理由

「2021年度起業と起業意識に関する調査」の中で「起業に関心がある」と答えた層が3,716名(全体の14,9%)。彼らが起業に興味を持ちながらも、まだ起業していない理由については概ね2点が挙げられます。

  • 自己資金が不足している(48.6%)
  • ビジネスのアイデアが思いつかない(27.8%)

ちなみに3割を締める「失敗したときのリスクが大きい(31.5%)」をあえて列挙しないのは、次項で紹介する「図-42 失敗したときのリスク」の8割が「事業に投下した資金を失うこと」とされており、金銭的な問題として1つ目の理由重複していると考えるからです。

本項にて、起業関心層が起業しない理由を「お金の不安があるから」「起業アイデアがないから」の2つに絞り解説を進めます。

お金の不安があるから

先ほど触れた「図-42 失敗したときのリスク」のグラフを見てみましょう。

起業 相談 失敗したときのリスク

上図を見ると、起業しない理由としてお金の問題を挙げた層の多くが、下記の悩みを持っていることがわかります。

  • 事業に投下した資金を失うのが怖い
  • 安定した収入を失うことが怖い
  • 借金や個人保証(注1)を抱えることが怖い

確かに起業に失敗した場合、投下資本は失いますし、借金を抱えるリスクはあります。また、会社員と比べて収入が不安定になることも間違いありません。

実際、起業スクールを運営する弊社の肌感覚としても、起業に躊躇する理由として上記のような悩みを打ち明ける方は少なくありません。

しかし後述する通り、お金の不安が理由で起業しないことは誤りであり、多くの起業家がこのような悩みを抱えていません。

注1:金融機関から融資を受ける際、個人がその融資を保証をする場合、起業家などが負う保証を「個人保証」といいます。

起業アイデアがないから

改めて「図-41 まだ起業していない理由」を見てみましょう。

起業 相談 起業していない理由

起業関心層の3割が「起業アイデアがない」という理由で起業できていないことが分かります。

会社員として非常に優秀な方で事業を「1→10」「10→100」に広げることが得意である一方で、「0→1」のところで創造性を発揮できないという方は少なくありません。

アントレカレッジでは、初めの面談で菅野・中村講師が受講者様と話し、起業アイデアを提案。すると、獅子奮迅の勢いで事業を立ち上げるという姿を何度も見てきました。

同様に、起業関心層の3割が「アイデアがなくて起業できない」と悩んでいます。しかし、この悩みですらも起業家の調査結果を見ると不要な心配であることが分かるのです。この点についても、次の見出しで詳細に解説をします。

起業前の相談が不要である理由

先ほどの見出しの中で「お金の不安やアイデアがないことが理由で起業しないことは誤り」と、多数派のイメージとは真逆の主張をしました。

しかし、起業に興味がありながらも実行に移せず「誰かに相談したい」と考えている人ほど、お金・アイデアの2つで悩んでいるのです。

本項では、6万人の起業家・起業関心層を対象にした「2021年度起業と起業意識に関する調査」の結果を根拠に、お金・アイデアで悩む必要がない理由について解説をします。

起業家の多くが起業に大金をかけていないから

下図は、起業家とパートタイム起業家(注2)における起業費用の比率です。

起業 相談 起業費用

この比率を見ると、起業家の50%近くが50万円以下で、20%が費用をかけずに起業していることがわかります。また、パートタイム起業家の50%近くが費用無しで起業しており、50万円未満の者も含めると80%を超えます。

事業によって差異はあるでしょうが、50万円未満でも十分に起業することができ、経済的な理由で悩むことはありません。

注2:事業に充てる時間が週35時間未満の起業家

借金をせずに起業している

先ほどの見出しにおいて、起業前に相談したい人の一部は「借金や個人保証を抱えることが怖い」という悩みがあると仮定しました。しかし、下図を見ると、起業家の8割、パートタイム起業家の約9割が借金なしで起業できていることが分かります。

起業 相談 起業時の金融機関借り入れの有無

注記を見ると、家族・知り合いからの借金は含まれていません。しかし、さらに調査結果を追うと、起業家の63.5%、パートタイム起業家の75.3%が自己資金で起業していることが分かっています。

起業 相談 起業費用に占める自己資金割合

多くの起業家が個人保証を要する借入が必要とせず、さらに自己資金100%の起業家が7割近いというのは心強い事実ではないでしょうか。

自室を使うことで低資金で起業できる

ここまで読んでくださった方は「なぜ費用をかけず、もしくは低資金でできるのだろう?」と不思議に思われたかもしれません。

調査結果を根拠にすると、起業家の約4割、パートタイム起業家の約6割が「自宅の一室」で仕事をしていることが理由として挙げられます。

起業 相談 仕事の場所と通勤時間

上図では、すでに起業済みの起業家・パートタイム起業家が自宅で仕事をしていることが示されています。PC1台でできるIT起業の幅が広がったことが、起業資金が掛からない理由の1つでしょう。

起業家の7割が黒字を出している

さらにお金関係の悩みについて追求すると、起業家の71.8%、パートタイム起業家の73.2%が黒字という結果が出ています。

起業 相談 現在の採算状況

起業時のスキル・人脈などが関わる部分ではありますが、調査時点では7割もの起業家が事業の採算が取れているのです。

「起業しても儲かるか分からない」「収入が不安定だ」という主旨で起業志望者の方から相談を受けることもありますが、そこまで不安になる必要はありません。

起業家のアイデアの半分に新規性がないから

当スクールでも「起業アイデアがないから起業できない」と相談に来られる方は少なくありません。話を聞いていると、多くの方が「起業アイデアは誰も思いつかない新規性のあるものじゃないと失敗する」と考えているようです。

しかし、当スクールでは全く新しい起業アイデアについて以下のように考えています。

  • 新しい市場は認知されるところから始めなければならず時間・お金がかかる
  • 全く新しいアイデアは成功するか分からずリスクが高い
  • 確立されたビジネスモデルは収益性があることが分かっており安全

また、調査において自身の商品・サービスの新規性を起業家に聞いたところ、半数以上が「ない」と答えています。

起業 相談 商品・サービスの新規性

この点からも起業に新規性は必要なく、それよりも成功しているビジネスモデルを探し、市場を獲得できる事業に変えていく力が求められていることが分かります。

起業家の満足度は高い

ここまでで起業するにあたってお金やアイデアで誰かに相談したいと考えている人も、そこまで心配にならなくて良いということが分かりました。しかし重要なのは、起業家が起業に対してポジティブなのか、ネガティブなのかということではないでしょうか。

収益があっても常に経済的に不安を抱えているならば、会社員の方が安定性があって良いでしょう。起業アイデアを模倣して成功しても、それが仕事としてつまらなければリスクを取る意味はありません。

しかし、同調査にて対象者の満足度を測ったところ、起業家・パートタイム起業家の方が、未起業者よりも収入・仕事のやりがい・ワークライフバランスについて満足度が高いことが分かりました。

起業 相談 起業家の満足度

さらに「事業を始めてよかったこと」について調査したところ、以下の点が挙がりました。

  • 自由に仕事ができた(57.9%)
  • 仕事の経験・知識や資格を生かせた(37.8%)
  • 事業経営を経験できた(34.9%)
  • 自分の技術やアイデアを試せた(29.0%)

このような喜びを味わえるのは起業家の醍醐味です。これまで起業に不安を抱え、誰かに相談したいと悩んでいた方も悩みすぎる必要はありません。

起業には相談よりも「後押ししてくれる存在」が必要

初めての起業は収益化までの先が見えず、不安になるものです。それに自分が考えた起業アイデアが世に受け入れられるのかも世に出してみないと分かりません。こればかりは、どれだけ経験を積んだとしても分からないのです。

しかし本記事で解説した通り、思っているほどお金・起業アイデアで不安になることはありません。起業家の7割は黒字化に成功し、そのうちの半数程度は起業家としての生き方に満足しているのですから。

起業したいと考えている方の多くが本当に必要としているのは、誰かへの相談よりも「後押ししてくれる存在」です。本記事が、そんなあなたの起業の後押しとなれたことを願っています。