自営業とは?個人事業主との違いやメリット・デメリットを社労士が監修

自営業は個人事業主・フリーランスと意味が違います。主な違いは以下のとおりです。

  • 自営業:自分で事業をしている人
  • 個人事業主:法律上の自営業の呼び方
  • フリーランス:組織に所属せず仕事を請け負い報酬を得る人

自営業は減少傾向だし儲からないと考える人もいますが、準備をしたうえで開業をすれば成功することも十分に可能です。ただし、自営業に関する知識を身に付け、成功のための準備を行うことが重要です。

そこで自営業の定義や会社員との違い、成功する人の特徴、行動をお伝えします。

この記事の監修者
岡 佳伸
社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表
開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、公益社団法人東京ビルメンテナンス協会)講師及び各種WEB記事執筆、日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載、NHKあさイチ2020年12月21日、2021年3月10日にTVスタジオ出演。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント。

自営業とは?

自営業は自身で事業を行っている人です。事業形態は様々で、飲食店やプログラマー、税理士業など会社に所属せず事業を営んでいれば自営業者に該当します。

関連:自営業で成功する人の特徴とは?

個人事業主・フリーランスと自営業との違いも下記に解説します。

自営業と個人事業主の違い

自営業と個人事業主はどちらも個人で事業を行う者という意味です。ただし個人事業主は、法律に則った呼び方です。開業する際も個人事業主として税務署に手続きを行います。

参考:[手続名]個人事業の開業届出・廃業届出等手続 – 国税庁

また、自営業者は法人で開業する場合があります。事業形態は法人であっても、個人で事業を営んでいる場合は自営業者です。法人化した一人親方などが該当します。ただし基本的には個人事業主と自営業者が使い分けされることは少ないです。

自営業と自由業(フリーランス)の違いとは

自由業(フリーランス)に明確な定義はありません。一般的に組織に所属せずに、個人で仕事を請け負い(仕事ごとに契約をして)報酬を得る人という意味で使われています。

そのため、全ての自営業者が自由業に該当するわけではありません。自営業の中にある1つの働き方というイメージです。

自営業者になるメリット6選

ここでは自営業者になるメリットを6つ紹介します。

自分のやり方で仕事が進められる

自営業者は仕事の進め方を自分で決めることができます。以下の調査結果を見てみましょう。

仕事の進め方 - JILPT調査
仕事の進め方 – JILPT調査

これを見ても分かる通り、作業を全て自分で実施した人がほとんどなので自分が最もやりやすい方法で他の人を気にせずに仕事が進められるのが自営業者のメリットと言えます。

自分がやりたい仕事ができる

自営業者は自分がやりたい仕事ができます。会社員は希望の業界に入社しても携わる業務は一部なことが多いです。部署がある以上、業務を全て行うことはできません。一方、自営業は、全業務に携わることが可能です。

場所や時間に囚われず仕事ができる

自営業者は場所・時間に囚われずに仕事ができます。店舗を持つ場合は、決まった時間・場所の業務になりますが、IT起業などの場合、いつ、どこで仕事を行っても良いのです。私生活と仕事を調整して生活できます。

以下の調査結果を見ると、作業を行う日時が指定されていないという自営業者が全体で66.7%に及びます。業種的にもほぼ70%弱が自由に働けていることがわかります。

作業を行う日・時間に関する指示の状況 - JILPT調査
作業を行う日・時間に関する指示の状況 – JILPT調査

同調査によると、作業場所に関しても業種全体で71.5%が「全く指示されていない」か「「あまり指示されていない」ことが分かりました。

作業を行う場所に関する指示の状況 - JILPT調査
作業を行う場所に関する指示の状況 – JILPT調査

この調査から自営業者は時間・場所的に制限なく働けている人が多いことがわかります。

収入をコントロールしやすい

会社員は急激に収入が増えません。一方、自営業者は実力次第で収入が上がります。収入に上限もありません。他にも収入は最低限で、私生活を充実させる働き方も可能です。このように収入を調節しやすい点も自営業の魅力です。

事業の流れ全てを経験できる

会社員は事業の最初から最後までを経験できることはほぼありません。「自部署の仕事ばかりこなしているせいで全体の流れが分からない」という方もいるでしょう。一方、自営業者は事業の最初から最後まで経験できるため、スキルアップにも繋がります。

意外とトラブルは少ない

自営業者は自身で取引先・顧客とやり取りをする分、トラブルに直面する回数が多そうですが、以下の調査では50.1%の自営業者がトラブルに遭遇したことがなかったと答えています。

トラブルについて① - JILPT調査
トラブルについて① – JILPT調査

また、トラブルにあった人のうち14.6%が「作業内容・範囲でもめた」「一方的に〇〇を変更された」と回答しており、事前に綿密な打ち合わせをすることでトラブルを避けることができそうです。

自営業主になるデメリット6選

次に自営業デメリットを6つ紹介します。

法人役員と比べてストレスが多い

自営業者は気楽に思われがちですが、中心となって事業を切り盛りするという立場で同じの法人役員と比べ、業務・業務以外のストレスや悩みが多いことが調査により分かっています。

業務や業務以外のストレスや悩みの有無 - 厚生労働省
業務や業務以外のストレスや悩みの有無 – 厚生労働省

事業を自分で営む必要性、将来への不安などを含めると自営業者はストレスを抱えやすいのです。

収入が不安定になりやすい

自営業者は収入が不安定です。会社員は基本給が定められ、業績に関係なく一定の金額をもらえます。一方、自営業は業績が悪ければ収入低下に直結します。「収入の大部分を占める取引先の仕事が急になくなった」という例も数多くあります。

以下の調査でも、自営業者を続ける上での問題点のトップに「収入が不安定、低い(45.5%)」、次点で「失業保険のようなものがない(40.3%)」「怪我・病気をしたときの労災保険のようなものがない(27.7%)」が挙げられています。

独立自営業者を続ける上での問題点 - JILPT調査
独立自営業者を続ける上での問題点 – JILPT調査

社会的信用が少ない

自営業者は社会的信用が少ないです。ローンを組む際であっても多くの提出物を求められます。会社員の場合1年分の所得証明で良い所を、2,3年分求められることもあります。中には、審査に入ることなく、ローンが組めないと伝えられることもあるほどです。

もちろん、一切ローンも組めず、クレジットカードも作れないというわけではありません。それでも、会社員と比較して審査が通りにくいということを留意する必要があります。

将来受け取れる年金が少ない

会社員の場合、国民年金に加えて、厚生年金にも加入しています。一方で、個人事業主の場合は、基本的に国民年金にしか加入していません。つまり、受給できる年金が少ないということです。そのため、私的年金の活用や貯蓄など資金計画を作る必要があります。

多岐に渡る知識・スキルが必要

自営業者として働くならば、多岐に渡る知識・スキルが必要です。仕事の知識はもちろん、経理や経営の知識も必須です。経営に携わっていない方で、これらの知識を持っている人は多くありません。そのため、本来自分がやりたいこと以外の知識も身に付ける必要があるのです。

以下の調査では、知識・スキルの習得に「書籍を使った(28.2%)」「会社での経験、研修、勉強会で身に付けた(34.3%)」「教育機関で身につけた(14.9%)」「勉強会、セミナーなどで習得(13.9%)」とあります。

独立自営業の仕事に必要なスキルや能力について① – JILPT調査

これらの手段を使って日々知識・スキルを身につけることを意識していく必要があります。

確定申告などの各種手続きが必要である

会社員の場合、住宅の購入などの特別な理由が無ければ、確定申告を行う必要がありません。一方、自営業者は毎年の確定申告が必要です。他にも、会社員では不要な社会保険料や住民税の納付なども必要です。自営業者になると各種手続きが多くなります。

先ほど挙げた調査(独立自営業者を続ける上での問題点 – JILPT調査)においても、「税金、社会保障などの手続きがわからない、煩雑である(9.9%)」という意見が挙がっていました。

後半の見出し「自営業者になるための手続き」にて、詳細な手続きを解説しましたので、こちらも併せてご覧ください。

自営業の代表的な職種・業種

自営業の業種

自営業の業種は多岐に渡ります。事業の特性を大きく分ける点は、店舗を要するか否かです。それぞれの代表的な業種を紹介します。

店舗を要する業種

まずは店舗を要する業種です。

業種職業例
飲食系ラーメン屋/寿司屋/イタリアン/カフェ/居酒屋/バー
小売系コンビニエンスストア/雑貨屋/洋服屋/酒屋/青果店
美容系美容師/ネイリスト/エステティシャン
教育系学習塾/予備校/習い事教室
医療系開業医/接骨院/鍼灸師
士業弁護士/税理士/司法書士

店舗を要しない業種

次に、店舗を要しない業種です。店舗が不要な場合、家賃がかかりません。そのため、固定費を抑えることができるというメリットがあります。大きく分けると、在宅形態と出先で仕事をする出張形態があります。

業種職業例
在宅形態プログラマー/Webデザイナー/ブロガー/イラストレーター/Webライター/小説家
出張形態出張介護/ドライバー/出張マッサージ

自営業者になるための手続き

個人事業主として自営業者になる際の手続きは多くありません。基本的には以下の手続きのみで開業が可能です。

管轄の税務署へ開業届を提出する

起業したら管轄の税務署へ開業届を提出します。提出期限が開業から1ヵ月以内に定められているため注意しましょう。他にも青色申告承認申請書や給与支払事務所の開設届出、青色専従者給与に関する届出など必要な書類を同時に提出しましょう。

国民年金及び国民健康保険への加入

自営業者になると、国民年金へ加入して健康保険料も自身で納める必要があります。これらの加入申請等を管轄の市区町村役場で行いましょう。健康保険料は退職前の健康保険の任意継続もしくは国民健康保険組合への加入という選択肢もあります。

その他必要な手続き

基本的に開業するために必須な手続きは上記2つです。しかし開業するための手続きはもう少しあります。

業種ごとに必要な手続きを行う

開業する業種によっては特別に行う必要がある手続きもあります。具体例として飲食業が挙げられます。飲食業を開業する際は、保健所に対して飲食店の営業許可申請が必要です。

確定申告の準備を行う

自営業者になると、確定申告が必要です。確定申告は膨大な時間を使用する手続きです。記帳など日々できることはその都度行い、直前に慌てないようにしましょう。具体的には以下のような準備が可能です。

・会計ソフトの導入
・日々の取引はその都度記帳する
・レシートや領収書を分けておく

また、自分1人で手続きを行うのが難しい場合は、税理士へ相談することも検討しましょう。

事業用の銀行口座を開設する

あらかじめ事業用の口座作成をおすすめします。屋号がある場合、屋号付き口座を開設できます。屋号付き口座があると顧客・依頼主からの信頼感や安心感につながるため活用してください。

小規模企業共済への加入を検討する

小規模企業共済とは、経営者における退職金代わりの制度です。自営業者は退職金制度が無いため、小規模企業共済を活用して、将来の資産設計の備えることが有効です。また、節税効果がある点もメリットです。必要な時には契約者貸付を受けることもできます。掛け金も選べるため無理のない範囲で活用しましょう。

個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入を検討する

個人型確定拠出年金(iDeCo)とは私的年金の1つであり、掛け金を運用して資産形成する制度です。会社員と比較した時に将来もらえる年金額が少ない自営業者は、任意の制度を使用して将来に備えましょう。

就業不能保険への加入を検討する

就業不能保険とは、傷病によって長期間働けなくなった時のための保険です。会社員の場合は傷病手当などで、長期間働けなくても一定の保証はされます。しかし自営業者が働けなくなったら収入を得られません。そのため、万が一のリスクに備えて就業不能保険へ加入する選択も有効です。

自営業とは?まとめ

自営業者が減少傾向にある現代において「自営業は成功しないのでは?」と思う人がいますが、そうではありません。自営業に関する正しい知識を身に付けて、入念な準備を行えば、十分に成功することが可能です。

当記事では、自営業の定義や会社員との違い、成功するための行動やポイントを解説しました。これらを参考にして、独立をより具体的なものにしてください。

社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表 岡 佳伸さんからのコメント
上記記事のように、自営業者になると会社員とは違い、確定申告・記帳等の経理業務及び社会保険加入や庶務等の総務業務が発生します。今まで会社が行って暮れていた業務全てを担当することとなります。更に法人化した場合法人の決算業務等も行わなければなりません。
各地の商工会議所や商工会、地方自治体で無料相談が行われているので上手に活用するとともに、早い段階で税理士や社会保険労務士等の士業に業務をお願いすることも視野に入れて計画を立てて行きましょう。