利益率の計算は2つの指標を理解しておけば会計処理ができるのです。その指標とは以下の2つです。
- 売上高総利益率(粗利率)
- 売上高営業利益率
利益率を常に意識しながら展開することで日々の会計処理を簡単に済ますことができ、その結果、起業家として事業に集中することができるようになります。
ちなみに、売上や利益の額が多ければ良いと思っている経営者もいますが、それでは経営は成功しません。なぜなら、売上や利益額が大きくても、経費も同様に大きければ、無駄な労力となってしまうからです。重要な利益率の指標を理解して正しく仕入れ・値段設定をすることが重要なのです。
そこで売上高総利益率(粗利率)と売上高営業利益率の求め方を中心に、利益率の計算方法や活用方法をお伝えします。
ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はジャザサイズ。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。
利益率とは
利益率とは「資本や売上高に占める利益の割合」です。利益は「儲け」と同義で、売上から費用を引いた残りの部分を表します。
会社が大きくなるほど資本と売上高は増えます。それに伴い利益も拡大します。業績を的確に判断するための指標として、利益の「額」だけで会社の収益性を判断するのではなく、投下資本や売上高に占める利益率が適切な判断指標となります。
利益率=どれだけ儲かるか
利益率は、どれだけ儲かるかの目安です。利益率の評価を判断するために事例を解説します。
利益率評価の例題
例えば、自社で開発・販売した商品が2つ(AとB)あったとします。
1個売れた際の利益が500円の商品Aと、利益1,000円の商品Bを比較すると、商品Bのほうが「利益額」は大きいです。ところが、商品Aの価格が2,000円、商品Bの価格が8,000円であれば話は変わります。
儲け(利益)に対する「利益率」は、商品Aが(500円/2,000円=25%)、商品Bが(1,000円/8,000円=12.5%)と、商品Aのほうが商品Bよりも高くなります。
利益額だけを評価すると効率の悪い商売になる可能性があります。そのため利益額ではなく利益率に注目することが重要です。
5種類の利益率
利益率には、以下の5種類があります。
- 売上高総利益率(粗利率)
- 売上高営業利益率
- 売上高経常利益率(ROS)
- 総資本利益率(ROA)
- 自己資本利益率(ROE)
つまり、指標によって利益率は異なるのです。しかし、通常は「売上高総利益率(粗利率)」と「売上高営業利益率」さえわかっていればOKです。
よって、本項では上記2つの意味と計算方法を説明します。
1. 売上高総利益率(粗利率)
売上高総利益率(粗利率)は、売上高から売上原価を引いた金額(粗利)から計算します。商品やサービスにどれだけの付加価値や評価があるかを表す指標のひとつです。粗利率が高ければ、商品・サービスの付加価値が高いということです。
●売上高総利益率(%) = 売上総利益(粗利) ÷ 売上高 × 100
(例)商品の売上げが30,000円、粗利が10000円の場合は、粗利率は33.3%となります。
売上高総利益率(粗利率)計算ツール
2. 売上高営業利益率
売上高営業利益率は、売上高から費用(人件費・広告費・光熱費・運搬費・通信費など)を引いた金額から計算します。企業の収益性・経営管理上の効率性を評価する指標です。企業の実力・体力を客観的に判断し、将来性が推測できます。
●売上高営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
(例)商品の売上高が30,000円、営業利益が10,000円の場合、営業利益率は33.3%です。
なお、売上高営業利益率は目安5%です。
売上高営業利益率計算ツール
3. 売上高経常利益率(ROS)
売上高経常利益率は、営業利益から本業以外の利益・損失を計算した金額から計算します。企業の基礎体力を示す指標です。
営業利益は本業での売上に占める利益を表しました。一方、経常利益は本業だけでなく、企業の総合的・継続的な活動全体を通じて得られる利益を指します。例えば、投資で資金運用を図る財テクなども含みます。
営業利益が低くても、本業以外に大きな収入源があれば経常利益が高くなります。逆に営業利益が黒字でも経常利益が赤字に転じる場合もあります。このため企業全体を評価するなら経常利益率を重視すべきです。
●経常利益率(%) = 経常利益 ÷ 売上高 × 100
経常利益は4%程度が平均値です。
4. 総資本利益率(ROA)
総資本利益率は、総資産に対する利益の割合を示します。企業が資本を効率的に運用しているかが分かります。なお総資本の定義は、自己資本と負債を合わせた額です。このため純資産だけでなく、融資などの負債も含めた全ての資本を指します。
●総資本利益率(%) = 当期純利益 ÷ 総資本 × 100
(例)当期純利益が10万円、総資本が100万円の場合であれば、10%となります。
5. 自己資本利益率(ROE)
自己資本利益率は、自己資本に対してどれだけの当期純利益を上げたかを示すものです。経営者より株主に向けた利益の評価指標で、株主の多くは自己資本利益率を指標として活用しています。なお自己資本利益率は、先ほどの総資本利益率から負債を除いた資本です。
●自己資本利益率(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
なお、自己資本は「自己資本 = 純資産 - 新株予約権 - 少数株主持分」として示されます。
利益率の目安
次に、それぞれの利益率における、主な業界別の利益率指標について示します。自分の利益率と比較してみてください。
項目 | 主な業界 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
製造業 | 卸売業 | 小売業 | 情報通信業 | 飲食サービス業 | サービス業 | 建設業 | |
売上高総利益率(粗利率) | 22.3% | 11.8% | 27.6% | n/a | 56.8% | n/a | 17.7 |
売上高営業利益率 | 3.6% | 1.8% | 2.6% | 7.4% | 3.7% | 6.4% | n/a |
売上高経常利益率 | 6.0% | 3.2% | 2.8% | 8.5% | 3.9% | 6.9% | n/a |
総資本当期利益率 | 2.7% | 3.8% | 2.7% | 5.2% | 2.6% | 6.6% | n/a |
自己資本利益率 | 5.3% | 9.8% | 6.2% | 10.5% | 6.1% | 13.6% | n/a |
参考:経済産業省 売上利益率, 2020年企業活動基本調査確報-2019年度実績-
利益率の関連指標と計算方法
利益率に関連して、意識すべき指標と計算方法について以下のものを解説します。
- 原価率
- 付加価値率
- 値入率
1. 原価率
原価とは、商品やサービスを制作するのにかかった費用を指します。
●原価 ÷ 売上高 × 100 = 原価率
売上1,500,000円 ÷ 原価5,000,000円 × 100 = 原価率30%
その他の人件費や家賃・光熱費などは「経費」となり、原価ではありません。
目標原価率から売値を求める計算
「目標原価率20%で売値を計算したい」と思った時は以下のように計算式を立てることができます。
(例)原価2,000円・目標付加価値率20%の場合
●原価2,000円 × 0.2 = 利益400円
これにより2,400円(原価2,000円+利益400円)を売値にすればいいことが分かります。
原価率計算ツール
2. 付加価値率
利益率や原価率が、売価に対する利益や原価の割合を表すのに対し、付加価値率は「原価に対する利益の割合」を示す指標です。原価に対して利益をどれくらい上乗せするかを考える際に有益で、計算方法は次のとおりです。
●利益 ÷ 売値 × 100 = 付加価値率
利益200円 ÷ 売値2,200円 × 100 = 付加価値率9%
付加価値率計算ツール
3. 値入率
値入率は、売値に対する利益率を求める指標です。値入率を計算した上で仕入れをしなければ、思った以上に利益が出ずに赤字になってしまう危険性すらあります。このため、値入率の計算方法をマスターして利益がきちんと出るようにしましょう。
売上高総利益率(粗利)と似ていますので、違いをまとめました。
- 値入率 = 値下げ・廃棄などのロスを考慮に入れない
- 粗利率 = 値下げ・廃棄などのロスを考慮に入れる
商品販売の過程で値下げや廃棄を行わなければ「値入率=粗利率」となりますが、商品を扱う上でロスがないという状況はほぼありません。
計算方法は、次のとおりとなります。
●値入高(売値 - 原価) ÷ 売値 × 100 = 値入率
200円(売値2,200円 – 原価2,000円)÷ 売値2,200円 × 100 = 9%
上記の計算で値入率は9%となります。
目標値入率から売値を求める計算
「目標値入率20%で売値を計算したい」と思った時は以下のように計算式を立てることができます。
(例)原価100円・目標値入率20%の場合
●原価100円 ÷ (1 – 0.2)= 125円
このように簡単な計算によって目標値入率から売値を導き出すことが可能です。
値入率計算ツール
まとめ
利益率の意味と計算方法、また利益率の種類や、主な業界別の目安や関連指標などについて詳しく解説しました。
起業して、事業を継続的に拡大・成長させるために、利益を高めることは企業にとって最大の命題です。
一方、先行き不透明な経済・社会環境化で、将来に備えて常に「次の一手」を準備するためには、この記事で取り上げた利益率についてよく理解し、をうまく活用して事業経営を行うことを期待します。
利益率や関連指標など、自社の現状分析をする数値には多くの切り口がありますが、数値をもとに仮説をたてて、具体的な対策をたてるというプロセスは一朝一夕で出来るものではありません。企業や株主向けに、IR情報を公開している企業もあるので、それをもとに同業他社の各種利益率や関連指標などを実際に分析する習慣を付けておくとよいでしょう。数値を自分の事業に生かすには、まずは多くの数値に触れることです。また、自分が投資家ならどのような企業に投資をしたいか?という視点で数値を客観的に眺めてみることも有効です。