損益計算書とは?図解で初心者向けに分かりやすく解説

損益計算書(PL)を正しく理解すると、事業の分析、意思決定に大きく役立つことをご存じでしたか?具体的には損益計算書で以下のことが分かります。

・企業の収益性
・企業の安全性
・利益を増加させるための改善点

損益計算書の理解は初心者には難しいと考える人もいますが、損益計算書の項目1つ1つはそれほど難しくありません。項目ごとの意味を押さえれば損益計算書の理解は簡単です。

そこで、損益計算書の見方や活用方法、作成の手順を本記事でお伝えします。

この記事の監修者
安部 智香
安部智香ファイナンシャルプランニングオフィス 代表
1967年生まれ。京都市在住。短大卒業後、証券会社に勤務。 証券会社在職中は、約500名のお客様の資産運用のアドバイスを担当。現在は個人事務所を立ち上げ、個別相談、執筆業務、マネーセミナー講師として活動中。

損益計算書(PL)とは?

損益計算書は収益・費用・利益で構成される決算書です。英語の「Profit and Loss Statement」を略して「PL」とも呼びます。損益計算書は、会社の決算を迎えたら作成します。作成した損益計算書は、事業分析・確定申告書への添付・他者への開示など、様々な用途で使用します。

損益計算書(PL)で分かる3つのポイント

損益計算書の中には、事業分析や意思決定に役立つ情報が数多くあります。例を挙げると以下の情報です。

・企業の収益性
・企業の安全性
・利益を増加させるための改善点

損益計算書の知識がなければ、事業が赤字か黒字か程度しか分かりません。そのため「損益計算書を読み解くと何が分かるのか」を理解しておくことが重要です。

損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の違いや関係は?

損益計算書と貸借対照表を混合して覚えている人がいます。この2つはどちらも決算書ですが、その内容は異なります。

損益計算書は期間・貸借対照表(BS)は時点の状況を表す

損益計算書・賃借対象表貸借対照表は決算日の財政状況を表す決算書です。具体的には会社の資産や負債、純資産をまとめています。損益計算書は一定期間の損益を表していますが、貸借対照表は決算日における一点の状況を表しているのです。

損益計算書と貸借対照表の両方を評価

貸借対照表では会社の安全度を確認できます。損益計算書で利益が出ても貸借対照表の負債が大きければ安全とは言えません。借入したお金で事業を回しているからです。

損益計算書と貸借対照表の関係性は「損益計算書の利益が増えれば、貸借対照表の資産が増える」ことです。一方で「損益計算書の費用が増えれば、貸借対照表の資産が減る」とも言うことができます。

損益計算書(PL)の科目を解説

損益計算書

損益計算書を理解するには、科目・利益・費用の意味を知る必要があります。ここでは、損益計算書の項目を分かりやすく解説します。

借方・貸方

決算書でもよく見かける借方・貸方。まずはこの2つの違いを理解しましょう。

借方

費用を収益から引くことで損益計算を行います。損益計算書の右側が貸方、左側が借方です。事業が黒字ならば借方に記入、赤字か利益が出ていない場合は利益の項目には何も記載しません。

・給料
・旅費交通費
・水道光熱費
・消耗品費 など

貸方

赤字の場合は、損益計算書の右側にある貸方に損失を記載します。

・営業外収益の売上高
・固定資産売却益
・有価証券売却益

収益

損益計算書の収益は売上高・営業外収益・特別収益の3つに分類されます。それぞれの特徴を見ていきましょう。

売上高

売上高は事業で得た収益です。例えば、商品を販売した際の売上やサービス提供から得られた収益を指します。ただし企業の本業ではない収益は売上高に含みません。

また、製造・受注などを行った段階で売上高に計上される点も注意です。キャッシュの動きと売上高に差異が生まれる場合があります。

営業外収益

営業外収益は、企業の本業以外から継続的に得られる収益です。例えば、株式投資の配当金、銀行預金の利息、金融収益などです。

これらは通常、売上高には計上されません。売上高・営業外収益・特別収益を把握し、事業のキャッシュフローを意識しましょう。

特別収益

特別収益は、企業の本業以外から単発的に得られる収益です。例えば、不動産や株式の固定資産売却益や債務免除益、前期損益修正益などです。

特別収益を売上高や営業外収益に計上すると、企業の収益性を高く見積もってしまう可能性があります。収益が単発的か継続的か見極め、正しく損益計算書へ記載しましょう。

費用

次に損益計算書における費用を解説します。

売上原価

売上原価は、実際に売れた商品の原価・仕入れに対する費用です。売れていない物に対する費用は売上原価には計上しません。

売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高

売上原価に含める原価は、業種によって異なります。外注費や人件費などを売上原価に計上できるか自身の業種ごとに判断しましょう。

販管費(販売費、一般管理費)

販売費は、売上原価に含まれない販売費・一般管理費を指します。

販売手数料や広告宣伝費など、販売活動の費用
水道光熱費や家賃、人件費や旅費交通費など企業の管理運営の費用

営業外費用

営業外費用は、企業の本業以外で継続的にかかる費用を指します。支払利息や開発費、手形売却損や雑損失などです。

また営業外費用は業種によって異なります。例えば、銀行業における支払利息は営業活動費にあたりますが、他の業種では営業外費用とみなされます。

特別損失

特別損失は、企業の本業以外から単発的にかかる費用を指します。例えば、自然災害・盗難による損失、固定資産売却損、前期損益修正損などです。

各費用が単発的か継続的かの基準が曖昧だと、損益計算書への記載が難航する恐れがあります。基準を設け、ブレなく計上できるようにしましょう。

法人税・住民税・事業税

法人税とは、企業活動の収益にかかる所得税を指します。また、事業税は個人事業主に課されるもので、属する都道府県に納付します。住民税も同様に、属する都道府県の都道府県・市区町村に納付します。こちらは前年収入によって金額が決定します。

利益

損益計算書 利益

損益計算書における5つの利益の解説をします。

売上総利益(粗利)

売上総利益は、売上高から売上原価(製造原価)を差し引いた利益で粗利とも呼ばれます。売上原価は商品やサービスを提供する費用です。例として、仕入値や材料費などがあります。

売上総利益から主事業でどれくらいの利益を出しているのか判断できます。しかし、この売上総利益から、売上原価以外の費用を引くため、最終的な利益はこれよりも少なくなります。

売上総利益(粗利) = 売上高 - 売上原価
講師 菅野一勢
売上高は「お客さんに商品やサービスを販売した時点で発生するもの」、売上原価は「商品の仕入れや製造時にかかってくる費用」です。原価には売れ残り商品は含まれない点も注意しておきましょう。

営業利益

営業利益は、売上高から変動費・固定費を引いた利益です。主事業でどれだけ利益を上げているかが分かります。求め方は以下の通りです。

営業利益 = 売上高 - (変動費+固定費)

変動費は商品の販売・製造に直接関係する費用です。例として広告宣伝費や販売手数料が挙げられます。また、固定費は会社の管理活動費用です。管理部門の運営に係る費用や家賃、通信費などです。

経常利益

経常利益は営業利益・営業外収益(費用)を含めた利益です。会社全体でいくらの利益が出たかを把握することができます。

例えば、主事業以外に不動産の賃貸や利息の受取・支払をしている会社もあるでしょう。主事業以外で、経常的にお金の動きがあるものを「営業外収益(費用)」と呼びます。求め方はこの通りです。

経常利益 = 営業利益 + (営業外収益 - 営業外費用)
講師 菅野一勢
営業外収益は「主事業以外の営業活動で得られる収益」、営業外費用は「主事業以外の営業活動でかかる費用」です。これらをまとめて「営業外損益」と呼ぶことも覚えておくといいですね!

税引前当期純利益

経常利益に特別利益を加え、特別損失を引いたものが税引前当期純利益です。

経常利益で会社の事業の収益は確定します。しかし他にも突発的な利益・損失があります。例えば、不動産売却益(損)などです。

業務に関係なく、その期だけに生ずる例外的な利益(損失)を特別利益(損失)と言います。特別利益(損失)は臨時性や金額の大きさによって個々に判断されます。そのため、絶対的な基準はありません。

税引前当期純利益 = 経常利益 + (特別利益 - 特別損失)

税引後利益(当期純利益)

税引後利益(当期純利益)は諸税金を引いた後の利益です。これが会社の事業期間における最終的な利益です。税引後当期純利益のことを純利益・最終利益とも呼びます。求め方は以下の通りです。

税引後利益(純利益)= 税引前利益 - 法人税等

「法人税等」には法人税・法人住民税・法人事業税などが含まれます。

税引後利益(当期純利益)

損益計算書は手順を踏めば誰でも作成できます。ここでは損益計算書を作る流れや効率化のコツを解説します。

損益計算書の書き方、作り方は?

損益計算書を作るためには、それ以前に行うべきことがあります。ここでは損益計算書を作るまでの流れを解説します。

損益計算書を作るまでの流れ

仕訳とは、日々の取引を借方(仕訳帳の左側)と貸方(仕訳帳の右側)に分けて、勘定科目と金額を仕訳帳へ記入することです。勘定科目とは、お金の動きの内容を表す名称のことです。具体的には「売上高」「普通預金」などです。

仕訳帳の形式もいくつかありますが、以下のようなものを作成するイメージです。

仕訳帳 損益計算書

正しく仕訳を行わないと、正確な損益計算書は作成できません。そのため「後にまとめて記帳する」ではなく、毎日記帳することが大切です。

日々の取引を仕訳する

総勘定元帳は取引を勘定科目ごとに記録する帳簿です。仕訳した取引を総勘定元帳へ転記します。

総勘定元帳 損益計算書

これは普通預金の総勘定元帳です。他にも現金や売掛金など、勘定科目ごとに転記を行います。

仕訳の結果を勘定科目ごとに総勘定元帳へ転記する

試算表とは、総勘定元帳を転記して集計をする一覧表です。合計試算表・残高試算表・合計残高試算表の3種類あります。計算・転記間違いの確認に使われるのが主です。

借方と貸方の合計値は一致するため、誤っていればすぐに分かります。以下は合計残高試算表のイメージです。

決算が来たら、試算表へ集計する

その後、損益計算書の作成を行います。先ほど説明した試算表を参考にして作成しましょう。損益計算書の様式もいくつかありますが、完成のイメージは以下の通りです。

損益計算書

基本的には、試算表の数字を転記して、足し算と引き算をするだけのため、難しくはありません。しかし、試算表の数字が合っていなければ、損益計算書の作成に移ることができないため、1つずつの過程を丁寧に行うことが大切です。

損益計算書を作成する

無料で取得できる損益計算書のテンプレートが数多くあります。エクセルで作成できるテンプレートを使用すると、誤っていた際の修正が簡単です。また、一度取得しておくと翌年以降の損益計算書の作成に使用できるため、是非活用してください。

損益計算書のエクセルテンプレートを活用しよう

損益計算書を作成するためには、原則として複式簿記での記帳を行う必要があります。また、1度数字が合わないと見直しの作業に多くの時間を必要とします。

中には複式簿記の知識がない人や可能な限り手間を省きたいという人もいるのではないでしょうか。そのような人には、会計ソフトの導入がおすすめです。会計ソフトがあれば、仕訳の入力をするだけで、全ての工程が終わるものが多いです。

転記なども不要な場合がほとんどのため、事務量の削減に大きく繋がります。

会計ソフトがあれば複式簿記の知識が無くても記帳が簡単

「損益計算書」を理解すると事業の分析や意思決定に大変役立ちます。具体的には、事業の収益性や安全性、改善策を判断しやすくなるのです。損益計算書を最大限生かすためには、仕組みや、5つの利益を正しく理解し、効果的な見方をすることが大切です。

当記事では損益計算書の概要や、経営に役立つ見方、作成の流れを記載したため、是非活用してください。

安部智香ファイナンシャルプランニングオフィス 代表 安部智香からのコメント
事業をしている人にとって、利益が出ているかということや損失が出ている場合は何が原因なのかを知ることは大切なことですね。複式簿記の知識がなくても、会計ソフトを利用することで損益計算書を作成できるのは助かります。損益計算書を事業に活かしていくことが大切ですね。