損益分岐点とは?わかりやすい考え方や計算方法を解説|計算機付き

「損益分岐点」を理解していると、事業の経営管理や意思決定に大きく役立つことはご存じでしたか?

なぜなら、損益分岐点売上高の値によってリスクの高低を推し量ることができるからです。

ちなみに「専門の勉強をしたことがないから、グラフを活用して役立てることは難しい」と考える人もいますが、そんなことはありません。

なぜなら、損益分岐点を理解するために覚える必要がある要点は数少ないためです。

また、グラフの作成も非常に簡単であり、誰でも簡単に作成することができます。

当記事では、損益分岐点の意味や計算式、関連する語句の解説を行っています。

最後には、グラフ作成の分かりやすい説明に加え、作成過程の動画まで掲載されているため、是非活用してください。

この記事の監修者
安部 智香
安部智香ファイナンシャルプランニングオフィス 代表
1967年生まれ。京都市在住。短大卒業後、証券会社に勤務。 証券会社在職中は、約500名のお客様の資産運用のアドバイスを担当。現在は個人事務所を立ち上げ、個別相談、執筆業務、マネーセミナー講師として活動中。

損益分岐点とは?簡単に解説

事業を行う上で「売上高」と「費用」の関係は非常に重要です。

総費用よりも売上高が多ければ利益が出ています。

一方で、売上高よりも総費用の方が多ければ損失が出ているということです。

ほとんどの事業者は「利益を出す」ことを主とした目的としているでしょう。

つまり「いくら以上売上を出せば利益が出る」という点が非常に重要となってくるのです。

講師 菅野一勢
事業をしっかりと分析するには、損益分岐点や売上高、費用などといった用語をきちんと理解しておく必要があります。そして、それぞれの数字を適切に導き出して「きちんと利益の出る事業」を形成していきましょう!

「いくらの売上で利益が出る」= 損益分岐点

そこで役立つのが「損益分岐点」です。

損益分岐点とは「売上高」と「費用」の値が一致している点を指します。損益分岐点を境に「利益」と「損失」が入れ替わるのです。

下記のグラフの場合、売上高と費用が交わる点が損益分岐点です。

損益分岐点

損益分岐点よりも売上が右に行くほど利益は大きいということです。一方で左に行くほど損失が大きくなることを意味します。

講師 菅野一勢
多くの経営者は「売上高を上げる」ことばかりを考えてしまっています。しかし極論で言えば、売上高が少なくとも総費用が同じく低ければ利益自体はしっかり確保できるのです。損益分岐点は視覚的に利益が出るポイントを掴むために理解しておきたい知識ですよ!

そして損益分岐点の売上高を「損益分岐点売上高」と言います。

2種類の費用「変動費」と「固定費」

先ほどのグラフを再掲します。

損益分岐点

これを見ると費用には「変動費」と「固定費」があることが見て取れます。

これらの2つは、損益分岐点を理解するためには必須の知識となるため、ここで解説します。

総費用 = 変動費 + 固定費

まず「総費用」は「変動費」と「固定費」に分けることができます。

「変動費+固定費=総費用」です。

変動費 = 量に比例して増加する費用

「変動費」とは、生産量や販売量に比例して増加する費用です。

例として、材料費や外注費が挙げられます。これらは生産や販売をしなければ発生しません。

反対に生産や販売をすればするほど増加していきます。

固定費 = 一定に発生する費用

一方で「固定費」とは、生産量や販売量に影響されない、事業を維持するために一定額発生する費用です。

例として、家賃や、給与などの人件費が挙げられます。これらは、製造や販売をしなくても毎月固定で発生します。

講師 菅野一勢
費用について、固定費・変動費のどちらになるのかを理解することは大事です。特に固定費は確実にかかってくる費用なので、できるだけ削減できるように努めましょう。こういった考え方も「費用は固定費・変動費に分かれる」という認識がなければできないのです。

変動費率とは

変動費は製造や販売をするほど増加します。つまり、売上高に比例して変動費も増加するということです。

その際の売上高に対する変動費の割合を「変動費率」と言います。

変動費率 = 変動費 ÷ 売上高

変動費率は「変動費÷売上高」で求めることが可能です。

例えば「売上高が100万円」「変動費が60万円」の場合を考えます。

売上を100万円上げるために、変動費が60万円かかりました。この場合、計算式は以下になります。

計算式
60万円 ÷ 100万円 = 0.6(60%)

つまり変動費率は0.6(60%)です。

また、この計算式を利用すると以下のように言い換えることもできます。

・変動費 = 売上高 × 変動費率
・売上高 = 変動費 ÷ 変動比率

損益分岐点を理解すると利益管理の分析が可能になる

損益分岐点を理解すると、企業の収益力や安全性に係る分析が可能となります。

例えば、損益分岐点が高すぎる場合、それだけリスクがあるということです。なぜなら、大量に商品を販売しなければ利益が出なくなってしまうからです。

一方で、損益分岐点が低ければ、売上が立たなくても、それに係る費用が少ないため、低リスクでの事業が可能です。

グラフを見ると一目でリスクが理解できるため、経営指針の意思決定に大いに役立ちます。

限界利益とは「売上高ー変動費」

限界利益とは

「限界利益」とは売上高から変動費を差し引いたものです。

損益分岐点の計算と深い関わりがあるため、ここで解説します。

「売上高-変動費」で表される限界利益では「固定費を賄える利益がどのくらい出るか」を把握することが可能です。

また、売上高に対する限界利益の割合を「限界利益率」と言います。

限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高

限界利益率は「限界利益÷売上高」で求めることができます。

例えば「売上高100万円」「変動費20万円」の場合を考えます。この場合、限界利益と限界利益率は以下のようになります。

【限界利益】  100万円 - 20万円 = 80万円
【限界利益率】 80万円 ÷ 100万円 = 0.8(80%)

限界利益率は高ければ高いほど、利益になる部分が大きいということです。

反対に言えば、売上が高くても限界利益率が低ければ利益となる部分は少ないということです。

また、変動費率と限界利益率を足すと100%になることも確認しておきましょう。

変動費率 + 限界利益率 = 1(100%)
講師 菅野一勢
損益分岐点の際にも言いましたが、売上高を上げることに躍起になるよりも、限界利益率を高める発想の方がスマートに利益を出しやすいです。特に個人事業主や零細企業の場合には、小資本でできるだけ利益率の高い事業を考える方が低リスクで良いでしょう。

損益分岐点の計算方法と計算例

「専門的な計算は難しい」と不安に思っている人はいませんか。

実は、損益分岐点売上高の計算はそれほど難しいものではありません。

その証拠に、損益分岐点売上高の計算は以下のようにシンプルです。

損益分岐点 = 固定費 ÷ 限界利益率

ここでは計算方法とそれを踏まえた例題を確認していきます。

損益分岐点の計算方法

先述の通り、損益分岐点は「損益分岐点 = 固定費 ÷ 限界利益率」で求めることができます

先ほど抑えた用語をもう一度おさらいしましょう。

限界利益率 = 1 - 変動費率
変動費率  = 変動費÷売上高

「変動費率」は先ほど確認した「変動費÷売上高」ですね。

つまり「固定費÷{1-(変動費÷売上高)}」と言うこともできます。

更に「変動費率+限界利益率=1」であることも押さえました。

これを応用すると「1-変動費率」は「限界利益率」に置き換えることができます。

損益分岐点売上高の求め方まとめ

主な損益分岐点売上高の求め方はこれらの3点のため、確認しておきましょう。

・固定費÷{1-(変動費÷売上高)}
・固定費÷(1-変動費率)
・固定費÷限界利益率

状況によって「変動費や売上高が分かる状態」「限界利益しか分からない状況」などがあります。

そのため、費用や変動費率、限界利益等の関係性を正しく理解することが非常に大切です。

損益分岐点計算ツール

売上高
固定費
変動費

損益分岐点の計算例

それでは、ここから損益分岐点の計算例を紹介します。

ここまで解説した損益分岐点の計算方法を参考にして、一緒に解いていきましょう。

問題

以下の場合、損益分岐点売上高はいくらでしょうか?
・変動費:40円
・売上高:100円
・固定費/月:30万円
※ただし、税金等の他要因は考慮しないこととします。

この問題が解ければ、利益を生み出すためには最低いくらの売上が必要かが分かるようになります。

回答・解説

回答
50万円

まず「変動費÷売上高」で変動費率を求めましょう。

変動費率 = 40円÷100円=0.4(40%)

変動費率が出たため、先ほどの公式に当てはめましょう。

損益分岐点売上高 = 固定費÷(1-変動費)
損益分岐点売上高 = 30万円÷0.6
損益分岐点売上高 = 50万円

これで損益分岐点売上高が50万円であることがわかりました。

売上が50万円を超えれば、利益を生み出すことができるということです。

別解

なお、変動費率が0.4と出た段階で、限界利益率を0.6と算出する方法も有効です。

限界利益率 = 1 - 0.4
限界利益率 = 0.6

その場合の計算式は以下の通りです。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
損益分岐点売上高 = 30万円 ÷ 0.6
損益分岐点売上高 = 50万円

このように、別の公式を用いても答えは一致します。

 


アントレカレッジ 起業 オンライン セミナー
 
\今ならオンライン参加無料!/

損益分岐点を下げるには

損益分岐点を下げると以下のようなメリットがあります。

  • リスクが低下する
  • 少ない売上でも利益が出る

初めにも述べたように、損益分岐点が下がることで事業者にとってはこれ以上にないほどのメリットがあるのです。

そこで本項では損益分岐点を下げるための方法として以下の2つを紹介します。

  • 固定費を下げる
  • 変動費を下げる

固定費を下げる

損益分岐点を下げるために「固定費を下げる」という方法があります。

固定費を下げると限界利益によって賄うべき固定費の額が減少するため、損益分岐点は下がります。

例を挙げると、家賃や人件費の削減などです。

変動費を下げる

また「変動費を下げる」という方法もあります。

変動費が下がると、限界利益が増加します。つまり、同じ売上でも固定費に充てることができる額が増加するということです。

例として「仕入れ先の変更」や「外注費の交渉」などが挙げられます。 

損益分岐点比率とは

損益分岐点に関連する用語として「損益分岐点比率」があります。

損益分岐点比率とは「実際の売上高は損益分岐点売上高をどれだけ上回っているか」を確認できる値です。

これが100%の場合、利益も損失も0の状況です。

また、100%を超すと損失、100%を下回ると利益が出ていることを意味しています

本項では損益分岐点比率について、以下の2点を解説します。

  • 損益分岐点比率の計算方法と計算例
  • 損益分岐点比率の目安

損益分岐点比率の計算方法と計算例

損益分岐点比率は以下の計算式で求めることができます。

損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高

以下の設定で損益分岐点比率を計算します。

損益分岐点売上高 = 100万円
実際の売上高   = 150万円

この時の損益分岐点比率は以下の計算式で求められます。

100万円 ÷ 150万円 ≒ 0.67(67%)

損益分岐点比率の目安とは

損益分岐点の大まかな目安は以下の通りです。

損益分岐点比率の目安

これはあくまで目安ですが、経営の参考になるでしょう。

安全余裕率とは

「安全余裕率」とは、現在の売上高がどれだけ損益分岐点売上高を上回っているかを表す値です。

どのくらい経営に余裕があるかを判断する際に使うことができます。

安全余裕率についても、以下の2点を解説します。

  • 安全余裕率の計算方法と計算例
  • 安全余裕率の目安とは

安全余裕率の計算方法と計算例

安全余裕率は以下の計算式で求めることができます。

安全余裕率 = (実際の売上高-損益分岐点売上高) ÷ 実際の売上高

以下の状況を例として、安全余裕率を求めてみましょう。

損益分岐点売上高 = 100万円
実際の売上高   = 200万円

この時の損益分岐点比率は以下の計算式で求められます。

(200万円-100万円)÷200万円=0.5(50%)

なお「実際の売上高-損益分岐点売上高」がマイナスとなる場合は、安全余裕率もマイナスとなります。

講師 菅野一勢
安全余裕率は売上高が損益分岐点をどれぐらい上回っているかを示すものです。つまり、この数値は売上高から損益分岐点までの黒字部分を表す概念となります。

安全余裕率の目安とは

安全余裕率の目安は以下の通りです。

安全余裕率の目安 損益分岐点

あくまで目安の数字ですが、事業の安全度を測る参考としてください。

目標利益達成売上高とは

損益分岐点を発展させた概念として「目標利益達成売上高」があります。

損益分岐点売上高は「利益と損失の間の点」を指していました。一方で、目標利益達成売上高は「目標の利益を達成するための売上高の点」を指しています。

目標利益達成売上高の計算方法と計算例

損益分岐点売上高は以下の計算式で求めることができます。

(固定費+目標利益)÷(1-変動費率)
※「1-変動費率」は「1-(変動比率÷売上高)」もしくは「限界利益率」でも構いません。

以下の状況を例として、安全余裕率を求めてみましょう。

固定費  = 50万円
変動費率 = 0.5
目標利益 = 30万円

この場合、目標利益達成売上高は以下の計算式で求められます。

(50万円+30万円)÷(1-0.5)=160万円

つまり「当状況下で30万円の利益を達成するためには、160万円の売上を上げる必要がある」ということです。 

エクセルで損益分岐点のグラフを作成する方法

ここではエクセルで損益分岐点のグラフを作成する方法を解説します。資料作成や経営分析に役立ててください。

エクセルで損益分岐点のグラフを作成するために、まずは表の作成を行います。

下の表がベースとなります。

損益分岐点

本来、売上高が0の際の変動費は同じく0ですが、グラフ上は「固定費+変動費」の値を取るため便宜上固定費と同一の値とします。

また、売上高の最大値は任意で決定します。

自身の事業では超えないであろう値を設定してください。

例として以下のように設定します。

・売上高の最大値500,000円
・変動比率0.6
・固定費100,000円

この値を入力すると以下のようになります。

損益分岐点

本来、売上高が500,000の時の変動費は300,000となりますが、グラフ上固定費と合算した値を取るため「300,000+100,000=400,000」となります。

また、固定費は売上高に影響されないため、同様に100,000です。

この表を基にグラフの作成を行います。

①表を選択し「挿入」
②グラフ
③2-D面

上記の順に選択を行い、以下のグラフを設定してください。

損益分岐点 エクセル

上記の作業で以下のようなグラフが表示されるはずです。

損益分岐点 エクセル

グラフを設定したら、上部「デザイン」より「行/列の切り替え」を選択します。

切り替え後の表は以下の通りです。

損益分岐点 エクセル

このグラフとなったら、それぞれの色を右クリックします。

そして「塗りつぶし」を無しとし、その後に「枠線の色」を選択します。

この作業をそれぞれ行うと以下のようなグラフとなります。

損益分岐点 エクセル

タイトルやサイズをお好みに変えて、損益分岐点のグラフが完成となります。

エクセルで損益分岐点のグラフを作成する方法 動画版

ここまで解説したエクセルで損益分岐点のグラフを作成する方法を動画でも分かりやすくお見せします。

講師 菅野一勢
エクセルだけでなく、Googleスプレッドシートなどでも応用できるので損益分岐点グラフを作成する際にご活用ください!

まとめ

損益分岐点を理解すると、事業の経営管理や意思決定に大いに役立ちます。

また、グラフを活用することで、視覚的に、一目で事業の状況を把握することができるのです。

当記事では、損益分岐点の意味や計算方法及び、関連語句の解説を行いました。

これらを活用することによって、今まで気付かなかった事業の改善点等も見つかるでしょう。

また、グラフの作り方も画像、動画付きで解説したため、資料作りや経営判断などに活用してください。

【FP監修】利益率の計算・出し方をゼロから学ぼう|業界別目安付き】にて利益率についても解説しています。

こちらも事業者にとって重要な指標なので、ぜひご一読ください。

安部智香ファイナンシャルプランニングオフィス 代表 安部智香からのコメント
事業を継続していく上で、損益分岐点を知ることは大切ですね。
損益分岐点を知ることで、変動費を減らしたらいいのか、固定費を減らしたらいいのかという改善点が見えてきます。
エクセルを利用して損益分岐点のグラフを作る方法もぜひ試してみてくださいね。